年上の大きい魔女たちから“ひよっこ”扱いされいる127才の小さい魔女は、ブロッケン山で開かれる魔女たちのお祭り「ワルプルギスの夜」に参加したくてたまりません。好奇心旺盛の彼女は、相棒のカラスのアブラクサスが止めるのも聞かず、内緒で魔女たちの祭の輪の中に入るのですが、調子に乗り過ぎてばれてしまって魔女のおかしらに大目玉を食らいます。来年の「ワルプルギスの夜」に参加するための条件は、「よい魔女」になること。アブラクサスに「魔法を使ってよいことをしなきゃ」とアドバイスされた彼女は、知恵を働かせ、出会った人たちが幸せになるように奔走します。おっちょこちょいでお調子者、でも賢くて勇気のある小さい魔女の物語。 さて友だちの小3の娘っコの誕生日とクリスマスには、いつも名作児童文学をプレゼント、と決めているのですが、自分が小3の時にそういえばプロイスラーの『小さい魔女 森のはずれの小さい家に住んでいるところとか、冬には暖炉の前で背中をあぶりながら、ひねもす編み物をしているところとか。小さい魔女は、相棒のカラスのアブラクサスといっしょに気侭な生活を営んでいるのです。失敗して落ち込んだり、退屈で死にそうになったり、腹が立ったら仕返しを計画し、楽しいことにはワクワクする。自分の気持ちにとても素直で、いつでも前向きなキュートな女性なのです。 そしてラスト、子どもの頃は爽快感のみを感じていたのですが、大人になって読むと、ある意味胸が苦しいです。小さい魔女が選んだこと、それはものすごい決意で、自分の信念を貫くために大きな代償を払った思うのです。多分、普通の常識ある人と呼ばれている人間には、とてもとてもできないような行動です。でもその潔さは、勇気を与えてくれる。 自分はそれほど大した器じゃない、って認め、飄々としつつ、自分が自分らしくあるために、自分の信念を貫く強さがあるところが、いいなあと、理想だなあ、としみじみ思ったわけです。 (060823) |
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6歳のちえ子は、赤ん坊の時に親元から離れ、祖父母の元で暮らしている。船乗りだったハイカラな祖父と夕食後に昔語りをしてくれる祖母は、幼いちえ子を優しく慈しみながら育てている。淡々と綴られる、少女と祖父母との四季折々の生活。しかしやがて別れと新しい出会いがあり、大人しく気弱なちえ子も少しずつ成長していく....。といった内容のお話です。児童文学ですが、原稿用紙にして600枚の大作です。 実はこの本、仕事としてノルマ読書で読んだのですが、もう読みながら目が真っ赤。別に号泣するような劇的な事件など起こらないし、むしろ、ただただ日々の生活を描いているだけなのに、何故か初っ端からやられっぱなしでした。兎も角、主人公の幼いちえ子が健気で純粋で。そして仕事で書いたあらすじを読んだ友だちが、「本編読んでないけど、あらすじだけで胸がいっぱいになって泣けてきた」という、そのぐらい妙な力を持った物語です。ひとことで言えば“ノスタルジー”。といっても、30代の私ですら、「昔だなあ」と思えるような暮しぶり(洗濯板で洗濯とかさ)で、自分自身がその生活を懐かしいと思うわけでもないのに、全編に郷愁が漂っているのです。 今では図太くなってすっかり忘れちゃってますが、小さい頃、何故か無性に不安で哀しくなることがあったと思うのです。夜眠る前、何か忘れ物をしているような気がしてたまらない、落ち着かなく、理由もないのに泣きそうになることが多々あったと。幼いちえ子は、まさにその頃の私です。でも朝になるとすっかり元気で、世界はわくわくすることをたくさん準備して、私が飛び出していくのを待っているのです。 個人的には、ハイカラなじいちゃんのキャラクターがとても素敵で大好きです。私は、生まれた時からもうすでに祖父は二人とも亡くなっていたので、「じいちゃん」というのはどういう人なのかはわからないのですが、私の中では、『アルプスの少女ハイジ』のおんじと並ぶベストオブじいちゃんです。しかし、ばあちゃんは若い頃苦労したろうなあ.....。というのが偲ばれるエピソードもちらほら。でもそれを乗り越えた静かに愛ある老夫婦の姿が描かれています。これがわかるのは大人の読み手の楽しみかもしれません。(050730) |
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東京創元社って、玄人好みな本をセレクトするのが上手だな〜と思います。決してキャッチーじゃないけど、読めば読むほど味が出ると言うか、「ああ、あの本ね。私好きだよ」と言ってしまう本が多いのね(ダイアナ・ウィン・ジョーンズの既刊も、東京創元社から出てるのは、自信を持ってお薦めできます)。編集者の人が本当の本好きなんだろうな、と思ったりするわけです。 なもんで、この本も、「新刊の児童書を読む」のをノルマにしてる同じゼミの人が読んでるのを見て、何げに図書館で借りて読んだんだけど、もう一度読みたい、という気分が募ってきて、とうとう自分でも買ってしまいました。読んでいる時は、ハラハラドキドキと面白く、思わず笑ってしまったり、あまりの描写のうげ〜さに「ぎょえ〜!」となる部分もあったりするけど、読み終えてみると、なんだか涙腺がゆるんでいるのです。そして、じんわりと何かが残る。 いずれも、1920年代から第2時世界対戦までの、禁酒法のシカゴでギャングが闊歩していた時代のアメリカの田舎町が舞台。 大ぼらを吹いて町中の人たちを騙したり、二連式のウィンチェスターを自宅の居間でぶっぱなしたり、町の悪餓鬼に容赦ないお仕置きをしたり....。おばあちゃんとすごす生活は、ギャングのいるシカゴで暮らすよりもずっとスリルとサスペンスに満ちている。それでいて、それらはすべておばあちゃん流の“正義”を貫いた結果であり、孫2人への深い愛情に満ちているのです。(050615) |
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数年前まで、これを含めて数冊しか邦訳がなかったダイアナ・ウィン・ジョーンズだが、ジブリさまさまで昨年は雨後のタケノコのようにアホほど邦訳が出ましたね。でもやっぱりこれがマイベストワンです。 原題は『火と毒草』というらしいけど、邦題の方が内容をよく表わしているような気もする。ちょっと甘ったるい感じだけども。タイトルの“九年”は、主人公ポーリィが10歳の時にチェロ奏者のリンさんに出会ってから、19歳になるまでの交流の日々の想い出、なんであるが、その9年間の想い出が、実は嘘の記憶に閉じ込められていることに気づくところから物語がはじまるんです。物語の前半は、ポーリィが真実の9年間、つまりリンさんとすごしてきた9年間を思い出していくところを描き、後半は、嘘の記憶を捨て、リンさんを“魔女”の元から奪い返しに行く過程を描く。 さて、 この本が日本で出版されたのは忘れもしない1994年の年末。買ったはいいけど、実家と自分の引っ越しが重なり、忙しくて年が明け、ようやく自分の荷物を整理しはじめようかという冬休み明けにこれを読みはじめてしまったからさあ大変。殆どの荷物が段ボールにまだしまいこまれているというのに、あまりの面白さに没頭し、すぐさまくり返して読んで、しかも知恵熱出す始末。ただし、それで私はあの阪神大震災の難を逃れたのでした。....その時、引っ越ししたての奈良の実家でくたばってた上、荷物がまだ殆ど段ボールの中だったので、震度7直撃のマンションに独り暮しをしていたにもかかわらず、現場にはいなかったし、壊れたものはテレビとワープロぐらいだったのだったのですから。そういう意味でも、私にとっては運命的な本なのです。(050603) |
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15年前から5年ほどの間にビッグコミック系で不定期連載されたSFショートコミックス。一時絶版になっていたけど、根強い人気だったらしく、著者再編集版として、未収録作品も合わせて復刊しました。なもんで、全部持ってるけど買わされちゃったよ。上の表紙の絵は、オリジナル版の1巻です。 科学や歴史の知識に裏打ちされたワンアイデアのストーリーが唸るほどに絶妙。SFが中心だけど、ミステリや人間ドラマ、ファンタジー、ホラー、時には哲学、宗教まで網羅し、それが子ども向け科学マンガのような丸くてかわいい絵柄で展開されていくのであった。コミカルな話もあり、怖いのもあり、でも「この短さとかわいい絵柄でここまで胸が熱くなるとは、ちくしょーめヤラレタぜ」と思うものが時折混ざっているのが、この根強い人気の秘密なんでしょうなあ。よく星新一を引き合いに出されているが、私はどっちかというと藤子・F・不二雄が描いたSF短編に近いと思う。藤子・F・不二雄は、SFのことを「少し(S)不思議な(F)物語」と言ってたそうだけど、まさしく岡崎二郎の作品もそうと思える。 思春期にSFにはまったものなら絶対に読め。(050429) |
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オススメコメント書くのにAmazonであらすじチェックしたら、これって1976年が舞台なのね。いや〜、古さを全く感じません。でも、インターネットと携帯があったら、ここまで主人公、苦労してないと思うぞ。....いや、またちがった苦労があるかもしれんが。 ニューヨークで生まれ育った元ストリート・キッズの青年が主人公の新感覚ハードボイルド。 これには続編の邦訳が2つあるんだが、本国では5作でちゃんと完結してるらしいのに、あとの2つが出てくれません。かなり人気のある作品なのに、なんで続き出してくれないの〜。とやきもきしてる人は、世の中にゴマンといることでしょうよ。 |
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今が旬です、恩田陸。本屋大賞とった記念。 恩田陸は、まだマイナーだったころから好きで、私の数少ない文庫を待たずになんでも出たら買いますハードカヴァーで高価でも例え文庫落ちしても好きな作品だったら2冊目でもええなんでも買いますよ作家の一人です。(って恩田陸以外ではダイアナ・ウィン・ジョーンズしかいませんが) で、これはまだ恩田陸が、「ミステリ」か「SF」しか書いてなかったころの、きっと今からじゃ絶対に書かないであろう希有な作品。SFマガジン連載中は、「いったいどうなるんだろう、この話....」と思って立ち読みしてました(<立ち読みかい!)が、1冊まとめて読んだら、まあすごい面白いんですよ! 私、これ夢中で読んで、電車で降りる駅を乗り過ごした上、次の日、知恵熱出しましたから!(あ、読んだ時の感想リンクしておこっと) まあ、あの頃に青春時代を過ごした人もそうでない人も、「面白い物語」が読みたい人は読んでみてください。 (050409) |
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いつの日か〜、旅する者よ〜。この足跡を見る時、あるいはそれを踏む時〜。その胸に伝わる、夢を知るだろ〜。(by小椋佳) 要は、「マルコ・ポーロの東方見聞録」なのである。 タイトルの「カラモラン」とは、「揚子江」のこと。「大空」は「そら」と呼びます。 今じゃ、十時間ぐらいでびゅーんと移動しちゃえる距離を、マルコたちは、駱駝で、徒歩で、帆船で、延々と旅をする。その過程の中で、離ればなれになっても必ず会えることを信じる人たち。そして、とてつもなく大きな距離が、人の心まで、限り無く広げようとするのだなあ。 (050407) |
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この「オススメ本」コーナーは、あまり知られてないけど、自分の好きな本を紹介しよう、というコンセプトであったことに気づいたので、最近読んだ本でなくていいじゃん、というところに落ち着く。 はさておき、昔筑摩書房からハードカヴァー〜文庫で出ていたダークファンタジーの名作が、この度ブッキングから復刊されました。兎も角、小学校中学校のころに読んだ児童書は、近所の図書館か学校の図書館で借りて読んでいたので、どんなに好きでも、自分では持ってないものが多い。で大人になって、手許に置いておきたいわ、と思った時には廃刊してんですよ。まあ、文庫の方は持ってたので、いつでも何度でも読み返しはしてたんですが、やはり初めて読んだ時と同じハードカヴァーのがほしいなあ、というのはずっと思ってたことです。なのでありがとう、復刊ドットコム!
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わはは。上はサイン本だ。わざわざ梅田の紀伊国屋のサイン会に行くぐらい、私はこの主人公の探偵沢崎のファンでさ。ともかく、沢崎シリーズ10年ぶりの新作だったので、ご祝儀点数です。 『そして夜は甦る 』 『私が殺した少女』 『さらば長き眠り』 『天使たちの探偵』 (050401) |
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隔月刊誌「Chara」で短期連載された表題作と、「小説June」に載った中編「Birthday」の2本立て。掲載誌が掲載誌なので、所謂「ボーイズラブ」が苦手な輩は避けてしまいそうなのだが、「読まず嫌いは一生の損です!」と叫んで回りたいような珠玉の1冊。後者の方にはその手のニュアンスはあるけど、まったく描写がないので、野郎にもお薦めできるな。特に表題作は、なんでこれが「Chara」に載ったかと驚くような深く重厚なテーマを内包しています。 |
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