『小さい魔女』
オトフリート・プロイスラー
出版社:学習研究社

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年上の大きい魔女たちから“ひよっこ”扱いされいる127才の小さい魔女は、ブロッケン山で開かれる魔女たちのお祭り「ワルプルギスの夜」に参加したくてたまりません。好奇心旺盛の彼女は、相棒のカラスのアブラクサスが止めるのも聞かず、内緒で魔女たちの祭の輪の中に入るのですが、調子に乗り過ぎてばれてしまって魔女のおかしらに大目玉を食らいます。来年の「ワルプルギスの夜」に参加するための条件は、「よい魔女」になること。アブラクサスに「魔法を使ってよいことをしなきゃ」とアドバイスされた彼女は、知恵を働かせ、出会った人たちが幸せになるように奔走します。おっちょこちょいでお調子者、でも賢くて勇気のある小さい魔女の物語。

さて友だちの小3の娘っコの誕生日とクリスマスには、いつも名作児童文学をプレゼント、と決めているのですが、自分が小3の時にそういえばプロイスラーの『小さい魔女』が大好きだったわ、と思い出して、この夏休みに読んでもらおうと思ってプレゼントしました。
プロイスラーと言えば、『大どろぼうホッツェンプロッツ』とか『クラバート』が有名だけど、私のプロイスラーベスト1はこの『小さい魔女』なんですね。 で今回、自分でも久しぶりに読み返してみたんですけど、改めて気づきました。もしかしたら、小さい頃に擦り込まれてしまったのかもしれないのですが、この小さい魔女こそ、私の理想の生き方なんですよ。

森のはずれの小さい家に住んでいるところとか、冬には暖炉の前で背中をあぶりながら、ひねもす編み物をしているところとか。小さい魔女は、相棒のカラスのアブラクサスといっしょに気侭な生活を営んでいるのです。失敗して落ち込んだり、退屈で死にそうになったり、腹が立ったら仕返しを計画し、楽しいことにはワクワクする。自分の気持ちにとても素直で、いつでも前向きなキュートな女性なのです。
それに、ウィニー=ガイラーの挿絵もとても魅力的! 見返しのいろんな表情を見せる小さい魔女の絵なんて、ほんとうに素敵なんですよ。

そしてラスト、子どもの頃は爽快感のみを感じていたのですが、大人になって読むと、ある意味胸が苦しいです。小さい魔女が選んだこと、それはものすごい決意で、自分の信念を貫くために大きな代償を払った思うのです。多分、普通の常識ある人と呼ばれている人間には、とてもとてもできないような行動です。でもその潔さは、勇気を与えてくれる。

自分はそれほど大した器じゃない、って認め、飄々としつつ、自分が自分らしくあるために、自分の信念を貫く強さがあるところが、いいなあと、理想だなあ、としみじみ思ったわけです。 (060823)

『ふたつの家のちえ子』
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今村葦子
出版社: 評論社

6歳のちえ子は、赤ん坊の時に親元から離れ、祖父母の元で暮らしている。船乗りだったハイカラな祖父と夕食後に昔語りをしてくれる祖母は、幼いちえ子を優しく慈しみながら育てている。淡々と綴られる、少女と祖父母との四季折々の生活。しかしやがて別れと新しい出会いがあり、大人しく気弱なちえ子も少しずつ成長していく....。といった内容のお話です。児童文学ですが、原稿用紙にして600枚の大作です。

実はこの本、仕事としてノルマ読書で読んだのですが、もう読みながら目が真っ赤。別に号泣するような劇的な事件など起こらないし、むしろ、ただただ日々の生活を描いているだけなのに、何故か初っ端からやられっぱなしでした。兎も角、主人公の幼いちえ子が健気で純粋で。そして仕事で書いたあらすじを読んだ友だちが、「本編読んでないけど、あらすじだけで胸がいっぱいになって泣けてきた」という、そのぐらい妙な力を持った物語です。ひとことで言えば“ノスタルジー”。といっても、30代の私ですら、「昔だなあ」と思えるような暮しぶり(洗濯板で洗濯とかさ)で、自分自身がその生活を懐かしいと思うわけでもないのに、全編に郷愁が漂っているのです。
ただし、それだけではただの“ちょっと前の日本の生活”を描いただけの話になってしまうのですが、これがこうも胸ふさぐように思えるのは、おそらく読んだ人がみな、心の中に“幼い頃の自分”を見つけるからではないか?と思うのです。
自分が知り得る狭い世の中しか世界がないと思っていた頃の、まわりの大人たちから無償の愛情を一身に受けていた頃の、他人にとっては些細なことでも、ものすごい決意と努力を持って次へ踏み出そうとしていた頃の。

今では図太くなってすっかり忘れちゃってますが、小さい頃、何故か無性に不安で哀しくなることがあったと思うのです。夜眠る前、何か忘れ物をしているような気がしてたまらない、落ち着かなく、理由もないのに泣きそうになることが多々あったと。幼いちえ子は、まさにその頃の私です。でも朝になるとすっかり元気で、世界はわくわくすることをたくさん準備して、私が飛び出していくのを待っているのです。

個人的には、ハイカラなじいちゃんのキャラクターがとても素敵で大好きです。私は、生まれた時からもうすでに祖父は二人とも亡くなっていたので、「じいちゃん」というのはどういう人なのかはわからないのですが、私の中では、『アルプスの少女ハイジ』のおんじと並ぶベストオブじいちゃんです。しかし、ばあちゃんは若い頃苦労したろうなあ.....。というのが偲ばれるエピソードもちらほら。でもそれを乗り越えた静かに愛ある老夫婦の姿が描かれています。これがわかるのは大人の読み手の楽しみかもしれません。(050730)

『シカゴよりこわい町』
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『シカゴより好きな町』
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リチャード・ペック
出版社: 東京創元社

東京創元社って、玄人好みな本をセレクトするのが上手だな〜と思います。決してキャッチーじゃないけど、読めば読むほど味が出ると言うか、「ああ、あの本ね。私好きだよ」と言ってしまう本が多いのね(ダイアナ・ウィン・ジョーンズの既刊も、東京創元社から出てるのは、自信を持ってお薦めできます)。編集者の人が本当の本好きなんだろうな、と思ったりするわけです。

なもんで、この本も、「新刊の児童書を読む」のをノルマにしてる同じゼミの人が読んでるのを見て、何げに図書館で借りて読んだんだけど、もう一度読みたい、という気分が募ってきて、とうとう自分でも買ってしまいました。読んでいる時は、ハラハラドキドキと面白く、思わず笑ってしまったり、あまりの描写のうげ〜さに「ぎょえ〜!」となる部分もあったりするけど、読み終えてみると、なんだか涙腺がゆるんでいるのです。そして、じんわりと何かが残る。

いずれも、1920年代から第2時世界対戦までの、禁酒法のシカゴでギャングが闊歩していた時代のアメリカの田舎町が舞台。
『シカゴよりこわい町』(ニューベリー賞次席)は、シカゴに住むジョーイとメアリ・アリスの兄妹が、田舎町の祖母の元で毎年過ごす夏休みの1週間を語ったもの。その1週間の間に起こる、剛胆な性格の祖母が巻き起こす様々な破天荒な事件と、胸のすく爽快な結末を描いてます。
『シカゴより好きな町』(ニューベリー賞受賞)は、大恐慌で家を失ったメアリ・アリスが、15歳の1年間、祖母の元に1人だけ預けられ、前作に負けるとも劣らない大活躍を見せる祖母との“女同士”の交流を軸に、学校生活や転校生との初恋を描いたもの。

大ぼらを吹いて町中の人たちを騙したり、二連式のウィンチェスターを自宅の居間でぶっぱなしたり、町の悪餓鬼に容赦ないお仕置きをしたり....。おばあちゃんとすごす生活は、ギャングのいるシカゴで暮らすよりもずっとスリルとサスペンスに満ちている。それでいて、それらはすべておばあちゃん流の“正義”を貫いた結果であり、孫2人への深い愛情に満ちているのです。(050615)

『九年目の魔法』
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ

出版社: 東京創元社

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数年前まで、これを含めて数冊しか邦訳がなかったダイアナ・ウィン・ジョーンズだが、ジブリさまさまで昨年は雨後のタケノコのようにアホほど邦訳が出ましたね。でもやっぱりこれがマイベストワンです。

原題は『火と毒草』というらしいけど、邦題の方が内容をよく表わしているような気もする。ちょっと甘ったるい感じだけども。タイトルの“九年”は、主人公ポーリィが10歳の時にチェロ奏者のリンさんに出会ってから、19歳になるまでの交流の日々の想い出、なんであるが、その9年間の想い出が、実は嘘の記憶に閉じ込められていることに気づくところから物語がはじまるんです。物語の前半は、ポーリィが真実の9年間、つまりリンさんとすごしてきた9年間を思い出していくところを描き、後半は、嘘の記憶を捨て、リンさんを“魔女”の元から奪い返しに行く過程を描く。
兎も角、9年間の想い出の日々の描写がめくるめくほど圧倒的なんですよ。もう、何回読んだかわかりませんが、今でもどこでページを開いても、ぐいぐいと引き付けられていっちゃって、ついつい読みふけってしまうのです。そして、すべてのシーン、すべての科白が、ラストへと集結していくのだから、何度も読んでもその度に新しい発見があるし。(まあジョーンズ作品の一番の魅力はそこなんですが)
あと、本好きにはたまらない仕掛けが。チェロ奏者で世界を演奏旅行で飛び回るリンさんは、旅先からポーリィに度々本のプレゼントをするのですが、そのセレクトが本好きにはまさにツボ。また、ポーリィがリンさんと二人で物語を作り上げていくエピソードも興味深いです。まさに、本好きのためのファンタジー。本を、物語を愛してやまない作者の真骨頂ともいえます。

さて、 この本が日本で出版されたのは忘れもしない1994年の年末。買ったはいいけど、実家と自分の引っ越しが重なり、忙しくて年が明け、ようやく自分の荷物を整理しはじめようかという冬休み明けにこれを読みはじめてしまったからさあ大変。殆どの荷物が段ボールにまだしまいこまれているというのに、あまりの面白さに没頭し、すぐさまくり返して読んで、しかも知恵熱出す始末。ただし、それで私はあの阪神大震災の難を逃れたのでした。....その時、引っ越ししたての奈良の実家でくたばってた上、荷物がまだ殆ど段ボールの中だったので、震度7直撃のマンションに独り暮しをしていたにもかかわらず、現場にはいなかったし、壊れたものはテレビとワープロぐらいだったのだったのですから。そういう意味でも、私にとっては運命的な本なのです。(050603)

『アフター0』
岡崎二郎

税込価格:\505
出版社: 小学館

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15年前から5年ほどの間にビッグコミック系で不定期連載されたSFショートコミックス。一時絶版になっていたけど、根強い人気だったらしく、著者再編集版として、未収録作品も合わせて復刊しました。なもんで、全部持ってるけど買わされちゃったよ。上の表紙の絵は、オリジナル版の1巻です。

科学や歴史の知識に裏打ちされたワンアイデアのストーリーが唸るほどに絶妙。SFが中心だけど、ミステリや人間ドラマ、ファンタジー、ホラー、時には哲学、宗教まで網羅し、それが子ども向け科学マンガのような丸くてかわいい絵柄で展開されていくのであった。コミカルな話もあり、怖いのもあり、でも「この短さとかわいい絵柄でここまで胸が熱くなるとは、ちくしょーめヤラレタぜ」と思うものが時折混ざっているのが、この根強い人気の秘密なんでしょうなあ。よく星新一を引き合いに出されているが、私はどっちかというと藤子・F・不二雄が描いたSF短編に近いと思う。藤子・F・不二雄は、SFのことを「少し(S)不思議な(F)物語」と言ってたそうだけど、まさしく岡崎二郎の作品もそうと思える。

思春期にSFにはまったものなら絶対に読め。(050429)

『ストリート・キッズ』
ドン・ウィンズロウ

税込価格:\840
出版社: 東京創元社
ISBN:4488288014
発売日: 1993/11

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オススメコメント書くのにAmazonであらすじチェックしたら、これって1976年が舞台なのね。いや〜、古さを全く感じません。でも、インターネットと携帯があったら、ここまで主人公、苦労してないと思うぞ。....いや、またちがった苦労があるかもしれんが。

ニューヨークで生まれ育った元ストリート・キッズの青年が主人公の新感覚ハードボイルド。
ってのがキャッチコピーになるかと思うんだが、これだとなんか吉田秋生の『BANANA FISH』の主人公アッシュみたいなのかしら〜、って思っちゃいそうやね。
まあ、インテリってところは共通項だけど、本編の主人公は「天才」ではなく「プロ」であり、「美少年」でなく「あくまでも平凡な容姿」という設定です。なんで、『BANANA FISH』みたいなあの手の派手な展開にはなりません。
幼い頃に「朋友会」という“秘密結社”に拾われ、徹底的に“プロの仕事”を仕込まれた23歳のニールは、英文学の教授になることを夢見る大学院生。いい加減、探偵の仕事から足を洗って、英文学の世界にどっぷりと浸かりたいと思ってるけど、なかなか叶わず、次期副大統領候補の家出したヤク中の17歳の娘を探し出して、秘密裏に家に連れ戻すという仕事を任命される。というわけで、主人公ニールがその娘を探し出して連れ戻すまでが話の大筋。それに、政治家の真のスキャンダルやら、ロンドンのヤクの売人だとか、実在の作家の幻の初版本の取引だとか、ヤク中の娘が実はとっても聡明で魅力的なのよね〜、ってのが絡み、もう一つの筋で、ニールの不幸な幼少期から、プロの探偵に見込まれて、プロの仕事を仕込まれていく過程を描いてて、最後まで飽きさせません。そして、幕切れは痛快だけど、なんとも切ないことよ〜。

これには続編の邦訳が2つあるんだが、本国では5作でちゃんと完結してるらしいのに、あとの2つが出てくれません。かなり人気のある作品なのに、なんで続き出してくれないの〜。とやきもきしてる人は、世の中にゴマンといることでしょうよ。
そして、この作品がここまで疾走感と爽快感があるのは、ひとえに訳者の東江一紀氏の丁寧な仕事にあると思います。でも続き早く訳して。お願い。 (050413)

『ロミオとロミオは永遠に』
恩田陸

税込価格:\1,890
出版社: 早川書房
ISBN:4152084375
発売日: 2002/11

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今が旬です、恩田陸。本屋大賞とった記念。

恩田陸は、まだマイナーだったころから好きで、私の数少ない文庫を待たずになんでも出たら買いますハードカヴァーで高価でも例え文庫落ちしても好きな作品だったら2冊目でもええなんでも買いますよ作家の一人です。(って恩田陸以外ではダイアナ・ウィン・ジョーンズしかいませんが)
それがまあ、 本屋大賞とっちゃって、もう私だけの恩田陸じゃないのね、と思ったけど、きっとそう思った人が日本中に万単位でいることでしょう。

で、これはまだ恩田陸が、「ミステリ」か「SF」しか書いてなかったころの、きっと今からじゃ絶対に書かないであろう希有な作品。SFマガジン連載中は、「いったいどうなるんだろう、この話....」と思って立ち読みしてました(<立ち読みかい!)が、1冊まとめて読んだら、まあすごい面白いんですよ! 私、これ夢中で読んで、電車で降りる駅を乗り過ごした上、次の日、知恵熱出しましたから!(あ、読んだ時の感想リンクしておこっと)
恩田陸は、ノスタルジーの作家と言われますが、この作品はリリカル方面ではなく、サブカル方面というか。昭和の後期をサブカルチャーにどっぷり、と言わなくても片足ぐらい突っ込んでいた人にとってはもう、身がよじれるほどのノスタルジーというか、ある種の気恥ずかしさなしでは読めません。なのに近未来SF小説。そういやさ、浦沢直樹が「20世紀少年」で大阪万博のころの日本をバーチャル世界で云々、ってやってるけど、あれによく似てて、でもこっちの方が垢抜けない、泥臭い、でもまだまだ未来を信じ、明るい気持ちを持っていたあのころをとても上手く表現してると思うな。

まあ、あの頃に青春時代を過ごした人もそうでない人も、「面白い物語」が読みたい人は読んでみてください。 (050409)

『カラモランの大空』
神坂智子

税込価格:\560
出版社: 潮出版社

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いつの日か〜、旅する者よ〜。この足跡を見る時、あるいはそれを踏む時〜。その胸に伝わる、夢を知るだろ〜。(by小椋佳)
いや〜、マルコ・ポーロといえば、この主題歌ですよ。昔NHKのアニメで、富山敬主演でやってたころから、「惚れたぜ!マルコ!」状態なんですわ。頭がよくて、剛胆で、弱き者に優しく、一本気。

要は、「マルコ・ポーロの東方見聞録」なのである。 タイトルの「カラモラン」とは、「揚子江」のこと。「大空」は「そら」と呼びます。
シルクロードものがお得意の作者にとっては、真骨頂ではないかなあ。いわゆるこの作者の海外ものの中では、最高の出来だと思います。まず、マルコのキャラクター造詣がいい。それに絡むのは、歴史上の大物から、架空の人物まで、人種も様々なら、性格も様々。小物も大物も悪者もすごく魅力的なんである。特にフビライ・ハーンのお茶目なこと。イタリア人で異教徒のマルコが、この遊牧民の皇帝の右腕となって自ら働こうとしたのが、すごく頷けるのである。そして、ストーリーはドラマティック。

今じゃ、十時間ぐらいでびゅーんと移動しちゃえる距離を、マルコたちは、駱駝で、徒歩で、帆船で、延々と旅をする。その過程の中で、離ればなれになっても必ず会えることを信じる人たち。そして、とてつもなく大きな距離が、人の心まで、限り無く広げようとするのだなあ。 (050407)

『光車よ、まわれ!』
天沢退二郎

税込価格:\2,835
出版社: ブッキング
ISBN:4835441303
発売日: 2004/08

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この「オススメ本」コーナーは、あまり知られてないけど、自分の好きな本を紹介しよう、というコンセプトであったことに気づいたので、最近読んだ本でなくていいじゃん、というところに落ち着く。

はさておき、昔筑摩書房からハードカヴァー〜文庫で出ていたダークファンタジーの名作が、この度ブッキングから復刊されました。兎も角、小学校中学校のころに読んだ児童書は、近所の図書館か学校の図書館で借りて読んでいたので、どんなに好きでも、自分では持ってないものが多い。で大人になって、手許に置いておきたいわ、と思った時には廃刊してんですよ。まあ、文庫の方は持ってたので、いつでも何度でも読み返しはしてたんですが、やはり初めて読んだ時と同じハードカヴァーのがほしいなあ、というのはずっと思ってたことです。なのでありがとう、復刊ドットコム!
これを初めて読んだのは、はっきり覚えています。中学一年生。昼休みに校舎の外で読んでいた記憶があるぞ。まだ入学したてで、春の日ざしが明るくて、ページが眩しかったです。なのにストーリーは、暗渠を手探りで動く(というシーンもあったしな)という感じ。挿絵の司修のエッチングが、もうそりゃ雰囲気盛り上げますよ。全体的に流れる「暗黒」ちっくなイメージと、表題にもなる「光車」の絢爛たるイメージとの対比が、たまらなくそそります。 そして、それが展開される舞台が、そのイメージにそぐわないほどドメスティックな感じ(主人公はごく普通の小学生だしさ)なのが、「奇妙な」というか「不思議な」バランスを生んでいます。(050405)

『愚か者死すべし』
原リョウ

税込価格:\1,680
出版社: 早川書房
ISBN:4152086068
発売日: 2004/11/25

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わはは。上はサイン本だ。わざわざ梅田の紀伊国屋のサイン会に行くぐらい、私はこの主人公の探偵沢崎のファンでさ。ともかく、沢崎シリーズ10年ぶりの新作だったので、ご祝儀点数です。
ところでこの本、読んだのは11月末です。あのころはよく本を読んでいたので、本を読んでない今、オススメ本が増えないのもなあ、と思って記憶を発掘。
探偵沢崎とは、新宿の裏町の古いビルで探偵事務所を開業している男なのだが、これがまあ、この作品の元ネタとなった「フィリップ・マーロウ」の名科白、「タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格はない」というのを本家よりも体現した主人公なわけです。弱きものに限り無く優しく、権力をふりかざすものには目一杯抵抗し、彼を虫けらのように罵る刑事やヤクザたちも、次第に彼の真摯さに根負けし、友情すら育んでしまうのであった。野郎は読むべし。そしてお嬢さんは、これ読んで男を見る目を養うべし。いやでも登場人物どれと結婚しても幸せにはなれそうにないなあ。
ところで、紀伊国屋のサイン会は、おっさんばかりか!と思っていたら、意外に同世代の女性も数名。あと若い男の子もいたなあ。でもびっくりしたのは、うちの母ぐらいの世代のおばちゃんたちもいたことだ。おばちゃんら、ハードボイルド好きなのかしら? でもって、サイン会が終わったら、著者の原氏と写真をいっしょに撮ってもいい、と言われたので、私は駅の売店に「写ルンです!」を買いに走りました。ミーハー。ちなみに原氏は、作品の登場人物からは兎角懸け離れた感じの、細身の優し気なおじさまでした。
あと、どうでもいい話だが、当日は同じく沢崎ファンの後輩の分もサインをもらってきた。んで、サインしてもらってる時に原氏を携帯で撮影し、奴にメールで送ったのだが、どうやら奴は、私からの着信の際の画像をそれにセットしたらしい。道理で電話する度に妙な含み笑いで出てくるわけだよ。
さて本来は、第1作目から勧めるべきなので、下にリンクを作っておきます。

『そして夜は甦る 』
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探偵沢崎初登場。いや〜、若いよ、そして青いよ、沢崎!

『私が殺した少女』
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シリーズ最高傑作と言われてるだけあって、事件が二転三転し、最後はあっと驚き〜って感じで面白いです。

『さらば長き眠り』
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「長き眠り」に「さらば」とか言ってるんやから、普通今は起きてるやろ!と思うが、これ発行後は10年間休眠状態。待たされた。

『天使たちの探偵』
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天使=少年たちってことで、少年が事件の鍵を握る短編集。先の長篇の後日譚も楽しめます。

(050401)


「The Enduring Story 」
Jeff Johnson and Brian Dunning

時々、仕事中等にiTuneのWebラジオを聴くんですが、私はケルト音楽のチャンネル専門です。そこで流れていた曲がツボで、すぐさまiTuneの画面ショットを撮って、アーティスト名チェックしてAmazonで注文。輸入版しかないんですが、それでも手に入るってすごいなあ。便利な世の中ですよ。
まあ、シンセの音楽ですが、ケルト音楽の要素たっぷりで、けっこうドラマティックで、オススメです。ちなみに私がツボだったのは、「Flight of Ravens(ホシガラスの飛行」という曲。名前からして、なんか物語がありそうです。(050327)

『独裁者グラナダ』
杉本亜未

税込価格: \560 (本体: \533)
出版:徳間書店
ISBN:4-19-960274-7
発行年月:2005.2

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隔月刊誌「Chara」で短期連載された表題作と、「小説June」に載った中編「Birthday」の2本立て。掲載誌が掲載誌なので、所謂「ボーイズラブ」が苦手な輩は避けてしまいそうなのだが、「読まず嫌いは一生の損です!」と叫んで回りたいような珠玉の1冊。後者の方にはその手のニュアンスはあるけど、まったく描写がないので、野郎にもお薦めできるな。特に表題作は、なんでこれが「Chara」に載ったかと驚くような深く重厚なテーマを内包しています。
弊録の「Birthday」はかなり直接的にテーマが見えると思うのだけど、表題作の方は、読む度に思うことが変わる。でもいずれも「生きることとは。おのれの存在とは」を問いかけてくる。文学的に一番基本的なテーマかもしれないけど、それを「Chara」と「小説June」でやったのが天晴れ。要するに、こんな重いテーマにもかかわらず、娯楽作品として、「読ませる」ものにちゃんとなってるわけですから。
私はこの作者の代表作の「ANIMAL X」の十数年来のファンなんだが、この恐ろしく波乱万丈で骨太な16巻になる物語を1年前に完結させ、次がこれか!とこの作者の「物語」に対する真摯な姿勢と情熱にまずは感動してしまいました。しかも、「Birthday」なんて、「ANIMAL X」の連載中で、クライマックスに差し掛かっていたころに描いてるのね。そしてこの2本、ストーリーも伏線も絵も構図もコマ割りもきっちりとストレート。計算しつくされています。私は、小説においてもマンガにおいても、紙の上に表われているものは、単なる技術的手段であって、如何にその向こうにある「物語」をそれらによって、読み手の中に構築させるか、がその作者の真価だと考えているのだけど、この2本の作品は、「物語」を語るための技術がこれまでのこの作者の最高レベルまで達していると思う。十数年前に初めてこの作者に出会って、そのころはまだ、話も勢いの部分もあり、絵も不安定だったけれども、登場人物の表情や科白に他にはない魅力を感じ、「なんだか知らないけど、すごいパワーを感じるぜ!」と思って、ずっとついてきた甲斐がありました。(050325)

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